熱帯

nettai

「目前に迫る締め切りに苦しむ小説家がいる。筆者のことである。
今年、人生で初めての本が出版されてからいつの間にか七年目であり、初々しさだけを売りにして人の好意に甘えるのがだんだん見苦しくなってくる、かといってベテランへの道のりはまだ長く険しい。内幕を暴露すれば、もう息切れしている。」

Amazon.co.jpだけで読める、という謳い文句のWEB文芸誌マトグロッソというサイトがあります。少し前の話なのですでに知っている人が多いと思いますが、このサイトで森見登美彦が「熱帯」という小説を連載しており、これが実に凝っています。冒頭の一説はこの「熱帯」の書き出しです。そしてこの小説、小説の中で同名の「熱帯」という小説が登場し、その書き出しも同じ。森見の「熱帯」が小説中に登場する「熱帯」の書き出しを真似て書いたもの、ということになっています。

ここから先はネタバレ要素を含むので、まだ「熱帯」を読んでいない方は先に読まれることをお勧めします。少なくとも第1章まで。そんなものに興味はないという方は、ここから先を読み進めてもやっぱり興味はもてないかと思います…。

ここまでならありがちな内容ではあるのですが、そこはAmazonが咬んでいるだけのことはあり、小説中に登場する佐山尚一著「熱帯」が実際に存在するかのように扱われています。何しろAmazonに商品として登録されていたりするぐらいです。しかもご丁寧にレビューまで載ってる。

私はすっかり騙されて、途中までこの「熱帯」(佐山尚一著)は実在の本だと思い込んでいました。第1章の後半で「これは何かおかしいぞ?」と思い、検索してみても引っかからない。で、国内で出版されたものは全部登録されていることになっている国会図書館をあたってみましたがやっぱりない。そうこうしているうちに第1章(11)で、これはフィクションか!っとはじめて気がついたりしたわけです。われながら鈍いですね…。根が素直なのですぐに人の言うことを信じてしまうわけですよ。でも私以外にもAmazonのお知らせメールに登録した人がきっといるはず。

それにしてもフィクションとわかってもなお、読みたいと思うのは何なんだろうねぇ?連載の続きでどんな小説なのかというのが明らかになると思いますが、気になって仕方がないです。

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